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危険な空き家をなぜ行政はすぐ壊さない?「特定空家」と行政代執行の仕組み

目次
  1. 危険な空き家をなぜ行政はすぐ壊さない?「特定空家」と行政代執行の仕組み
  2. 危険な空き家を行政がすぐ壊さない最大の理由
  3. そもそも「空き家900万戸」が全部危険なわけではない
  4. 行政が介入する「管理不全空家等」と「特定空家等」
  5. 「特定空家」になっても、いきなり強制解体ではない
  6. なぜここまで段階を踏む必要があるのか
  7. 所有者が分からない空き家はさらに難しい
  8. 所有者不明でも手詰まりではない「略式代執行」
  9. 本当に今にも倒れそうなら?2023年にできた「緊急代執行」
  10. 実際に「すぐ壊れなかった」空き家はどう進んだ?
  11. 行政代執行は実際に行われている
  12. 行政が壊した費用は誰が払う?
  13. それでも費用を全額回収できないことはある
  14. 何年も残っているからといって、必ず「放置」とは限らない
  15. 近所に危険な空き家がある場合はどうすればいい?
  16. 特定空家に指定されたら、すぐ解体される?
  17. 特定空家になると固定資産税が6倍になる?
  18. 所有者不明なら行政は空き家を壊せる?
  19. 今にも倒れそうなら、行政はすぐ撤去できる?
  20. 行政代執行の費用は誰が払う?
  21. まとめ|壊せないのではなく、「勝手には壊さない」

危険な空き家をなぜ行政はすぐ壊さない?「特定空家」と行政代執行の仕組み

近所に、長いあいだ誰も住んでいない家がある。外壁は傷み、屋根の一部は今にも落ちそうで、庭木も道路側へ伸びている。

台風や大雪が来れば何か飛んできそうだし、地震が起きれば倒れるのではないか。そんな状態が何か月も、時には何年も続けば、「市役所が危険だと分かっているなら、なぜ壊してしまわないのか」と感じるのは自然です。

しかし、危険な空き家でも自治体がその日のうちに重機を入れて取り壊せるわけではありません。

その理由は、単に「私有財産だから行政には手を出せない」というものでもありません。現在の空家等対策の推進に関する特別措置法(空家法)には、条件を満たした危険な空き家について、市町村が最終的に行政代執行によって強制的な措置を行う仕組みまで用意されています。

それでも通常は、所有者を調べ、建物の状態と周囲への影響を確認し、所有者自身に改善する機会を与えながら、指導、勧告、命令と段階を踏みます。

建物を強制的に壊すことは、それだけ強い行政介入だからです。

外からは「何年も放置されている」ように見える一軒の空き家。その裏側では、地域の安全を守ることと、個人の財産へ行政がどこまで介入できるのかという二つの問題が重なっています。

危険な空き家を行政がすぐ壊さない最大の理由

空き家の管理は、原則として所有者や管理者が行います。

屋根が傷んだら補修し、木の枝が道路へ出れば切り、建物を維持できないなら売却や除却を検討する。誰も住まなくなったからといって、その建物が自治体のものになるわけではありません。

一方、管理されない空き家が周囲へ深刻な危険を及ぼすようになれば、「所有者の財産だから」で終わらせることもできません。

そこで空家法は、市町村に一定の介入権限を与えています。

危険性が高い空き家などを「特定空家等」と判断し、所有者へ必要な措置を求め、それでも対応されない場合には命令へ進み、一定の条件を満たせば行政代執行も可能です。

では、なぜ最初から代執行しないのでしょうか。

国土交通省のガイドラインでは、特定空家等への措置には財産権の制約を伴う行為が含まれるため、原則として順を追った慎重な手続が必要だとされています。

さらに、危険性の判断も単純ではありません。

建物に傷みがあるだけではなく、そのまま放置した場合に何が起こり得るのか、道路や隣家との距離はどうか、通行人へ被害が及ぶ可能性があるかなど、周囲の状況も含めて判断されます。

自治体に解体する権限がないのではありません。

強い権限を持っているからこそ、通常は勝手に行使しない仕組みになっていると考える方が実態に近いでしょう。

そもそも「空き家900万戸」が全部危険なわけではない

日本で空き家が増えていること自体は事実です。

総務省統計局の「令和5年住宅・土地統計調査」によると、2023年10月1日時点の空き家は900万2千戸。2018年の848万9千戸から51万3千戸増え、総住宅数に占める空き家率も過去最高の13.8%となりました。

ただし、この900万2千戸を「危険な放置空き家の数」と考えてはいけません。

住宅・土地統計調査の空き家には、入居者を募集している賃貸住宅、売却中の住宅、別荘などの二次的住宅も含まれています。

そのうち「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」は385万6千戸で、総住宅数の5.9%です。

これも、そのすべてが倒壊寸前という意味ではありません。

さらに、統計調査で使われる「空き家」と、空家法でいう「空家等」は制度上まったく同じ概念ではありません。

空家法では「空家等」を、建築物または付属する工作物で、居住その他の使用がなされていないことが常態となっているものと、その敷地として定義しています。国や地方公共団体が所有・管理しているものは除かれます。

ニュースなどで見る「空き家900万戸」と、行政代執行の対象になり得る危険な空き家との間には、大きな隔たりがあるのです。

行政が介入する「管理不全空家等」と「特定空家等」

空家法では、管理状態が悪い空き家をすべて同じ段階で扱うわけではありません。

2023年12月に施行された改正法によって、新たに「管理不全空家等」という段階が設けられました。

大まかに整理すると、次のようになります。

区分大まかな状態主な行政措置
空家等使用されていないことが常態となっている建物など情報提供、助言など
管理不全空家等管理が不十分で、このまま放置すれば特定空家等になるおそれがある指導、勧告
特定空家等保安・衛生・景観・生活環境などの面で、法が定める問題状態にある助言・指導、勧告、命令、代執行

管理不全空家等は、いわば問題が深刻になる一歩手前の段階です。

市町村は所有者に必要な措置を取るよう指導でき、改善されず、そのまま放置すれば特定空家等になるおそれが大きいと判断すれば勧告へ進めます。

この制度には、命令や行政代執行はありません。

2023年の法改正は「危険な家を行政が壊しやすくした」だけではなく、特定空家等になる前に管理を改善し、問題の深刻化を防ぐ仕組みを強化したことにも大きな意味があります。

「特定空家等」はどんな空き家?

空家法では、主に次のような状態にある空家等を「特定空家等」としています。

  • そのまま放置すれば、倒壊など著しく保安上危険となるおそれがある
  • そのまま放置すれば、著しく衛生上有害となるおそれがある
  • 適切な管理が行われず、著しく景観を損なっている
  • その他、周辺の生活環境を守るために放置することが不適切である

たとえば外壁や屋根材が剥がれ、道路側へ落下する危険がある建物、倒木のおそれがある大きな立木、排水設備の破損などによって衛生上の問題が生じている状態などが考えられます。

ただ古い、草が伸びている、誰も住んでいないというだけで、自動的に特定空家等になるわけではありません。

国のガイドラインでは、建物自体の状態だけでなく、被害が及び得る範囲に周辺の住宅や通行人などが存在するかも判断材料とされています。

同じ程度に傾いた建物でも、住宅密集地や交通量の多い道路沿いにある場合と、周囲に建物も公道もない場所にある場合では、行政措置の必要性が同じとは限りません。

「特定空家」になっても、いきなり強制解体ではない

特定空家等と判断されたからといって、その翌日に解体業者が来るわけではありません。

通常は、

助言・指導 → 勧告 → 命令 → 行政代執行

という段階を進みます。

さらに通常の行政代執行では、命令後にも行政代執行法に基づく戒告や代執行令書といった手続があります。

まず所有者に改善を求める

最初の段階が、助言または指導です。

市町村は所有者等に対し、除却だけではなく、修繕、立木竹の伐採など、周辺の生活環境を守るために必要な措置を求めることができます。

ここで押さえておきたいのは、特定空家等への対応が必ず「建物を全部壊してください」になるわけではないことです。

屋根材の飛散が問題なら、その危険を除く措置で改善できる場合があります。木が道路へ倒れるおそれがあるなら、伐採が求められることもあります。

空家法が目的としているのは、「古い建物を壊すこと」ではなく、周囲への悪影響を解消することです。

改善されなければ「勧告」

助言や指導を受けても状態が改善されなければ、市町村は相当の猶予期限を設けて必要な措置を取るよう勧告できます。

この「勧告」は税制とも関係します。

一般の住宅用地では、200平方メートル以下の小規模住宅用地について固定資産税の課税標準が6分の1、200平方メートルを超える一般住宅用地部分について3分の1に軽減される住宅用地特例があります。

ところが、管理不全空家等や特定空家等について市町村から勧告を受けると、一定の場合にその敷地は住宅用地特例の対象から外れます。

よく「特定空家に認定されると固定資産税が6倍になる」と説明されますが、これは正確ではありません。

認定された瞬間ではなく、制度上の大きな境目は勧告です。また、課税標準の6分の1という特例が外れることと、実際に支払う税額が必ずそのまま6倍になることも同じではありません。

さらに改善されなければ「命令」

勧告を受けても必要な措置が取られなければ、市町村長は期限を定めて命令へ進むことができます。

命令は単なるお願いではなく、不利益処分に当たります。

そのため、命令しようとする相手には事前通知が行われ、意見書を提出する機会が設けられています。希望すれば、公開による意見聴取を求められる制度もあります。

「危険な家なのだから、所有者の言い分を聞く必要はない」と考えると、この手続は遠回りに見えるかもしれません。

しかし行政が他人の財産に強制的な処分を加える以上、行政側の判断にも適正さが求められます。

最終手段が行政代執行

命令された措置を所有者が実施しない、実施しても不十分、または期限までに完了する見込みがない場合などには、行政代執行へ進むことがあります。

通常の行政代執行では、行政代執行法に基づき、まず相当の履行期限を示して戒告します。

それでも履行されなければ、いつ代執行するのか、誰が執行責任者なのか、費用の概算はいくらかなどを記載した代執行令書を通知し、行政が所有者に代わって必要な措置を行います。

ここまで来て、初めて「行政が強制的に対応する」という段階になるのです。

なぜここまで段階を踏む必要があるのか

外壁が落ちそうな家を毎日見ている近隣住民からすれば、こうした手続はもどかしく感じるかもしれません。

それでも通常の特定空家等について段階的な手続が採られるのは、所有者を特別に優遇するためではありません。

行政が行おうとしていること自体が非常に強いからです。

建物を修繕させる。木を切らせる。場合によっては建物を取り壊す。

いずれも、個人の財産へ直接働きかける行為です。

しかも「将来倒壊するおそれ」がどの程度なのか、その建物が周辺へどれほど影響するのかという判断には、現地の状況に応じた評価が必要になります。

国土交通省のガイドラインが、特定空家等への措置について原則として順を追う必要があるとしているのも、こうした判断には一定の裁量が含まれる一方、措置には財産権の制約を伴う行為が含まれるためです。

行政が慎重な手続を踏むことと、危険な状態を放置してよいことは同じではありません。

制度は、まず所有者自身による改善を促し、それが実現しない場合に強い手段へ段階的に移る構造になっています。

所有者が分からない空き家はさらに難しい

建物の状態を調べるだけでなく、「誰に直してもらうのか」を確定する作業も必要です。

見た目には一軒の古い家でも、登記上の所有者がすでに亡くなっていたり、相続が何代も整理されていなかったり、共有者が複数いたりすることがあります。

国土交通省のガイドラインでは、空き家の所有者等を特定する手段として、不動産の登記情報だけでなく、住民票、戸籍や戸籍の附票、固定資産課税台帳の情報、親族や関係権利者への聞き取りなど、さまざまな調査方法が挙げられています。

必要に応じて水道・電気・ガスの事業者が持つ情報や、警察・消防など公的機関が把握している情報の有無を確認することもあります。

つまり、玄関に誰も出てこないから「所有者不明」と判断できるわけではありません。

登記名義人が亡くなっていれば、その相続人をたどる必要があります。

空き家を外から見ている人には何も動いていないように見える期間でも、自治体側ではこうした調査に時間を要している場合があります。

もちろん、長期間残っている空き家について「必ず行政が水面下で対応している」と断定することもできません。自治体の体制や案件の危険度、所有関係などによって進み方は異なります。

ただ、所有者を見つけられないなら何もできない、というわけでもありません。

所有者不明でも手詰まりではない「略式代執行」

必要な調査を行っても、措置を命じるべき相手をどうしても確知できない場合には、略式代執行という制度があります。

空家法では、市町村長が「過失なく」措置を命ぜられるべき者を確知できないとき、一定の公告手続を経たうえで、その者の負担として必要な措置を行政側で行える仕組みを設けています。

ここでも、

所有者が分からない=その家は誰のものでもない

ということではありません。

所有者を確認できないことと、所有権が存在しないことは別です。自治体の所有物になるわけでもなく、近隣住民が勝手に撤去してよいわけでもありません。

2023年の空家法改正では、略式代執行後に所有者等が判明した場合などの費用徴収も行いやすくなりました。

さらに、市町村長が裁判所へ財産管理人の選任を請求できる仕組みも強化されています。

相続人が明らかでない場合の相続財産清算人、所有者の所在が分からない場合の不在者財産管理人や所有者不明建物管理人など、状況に応じて裁判所が選んだ管理人を通じ、修繕や処分へ進める道もあります。

所有者が不明だから、行政は永遠に何もできないという制度ではありません。

本当に今にも倒れそうなら?2023年にできた「緊急代執行」

ここまで読むと、「台風が明日来るのに、それでも命令や意見提出を待つのか」という疑問が残ります。

この問題に対応するため、2023年の空家法改正で新しく設けられたのが緊急代執行です。

対象となるのは、災害その他の非常の場合で、特定空家等について緊急に必要な措置を取らなければならず、通常の命令手続を進める時間がないケースです。

国のガイドラインでは、台風の接近によって屋根材などが飛散する危険が高まっている場合、災害後に柱や外壁が大きく壊れた場合、建物が著しく傾いて道路や通学路などへ倒壊するおそれがある場合などが想定されています。

ただし、緊急代執行を「危険そうなら、その場ですべての手続を省略して解体できる制度」と考えるのも正しくありません。

空家法の緊急代執行では命令に関する一定の事前手続を省略できますが、国土交通省のガイドラインでは、助言または指導と勧告を経ている必要があるとされています。

さらに、措置を求めるべき所有者等を確知できない場合には、緊急代執行ではなく略式代執行を用いる必要があります。

自治体によっては、別に条例を設け、落下しかけた部材を取り除くなど必要最小限の緊急安全措置を行えるところもあります。この場合は空家法上の緊急代執行とは別の制度なので、両者を混同しないことも必要です。

実際に「すぐ壊れなかった」空き家はどう進んだ?

制度上の流れだけでは、なぜ時間がかかるのか分かりにくいかもしれません。

2026年3月に大阪府守口市が行政代執行した特定空家等の事例を見ると、実際の手続がどのように進むのかがよく分かります。

市によると、この建物について最初に情報提供があったのは2022年でした。

その後の主な経過は次のようになっています。

時期対応
2024年1月特定空家等に認定、指導
2024年6月再度指導
2024年8月再度指導
2025年8月勧告
2025年11月命令に係る事前通知
2025年12月命令、標識設置・公示
2026年1月行政代執行法に基づく戒告
2026年2月代執行令書
2026年3月所有者から自主撤去の申し出を受け一時延期
2026年3月24~25日行政代執行による除却

守口市は、外壁崩落や建物倒壊のおそれがあり、歩道や道路の通行人などに大きな被害を及ぼす危険があるとしていました。

それでも、特定空家等への認定後も複数回の指導を行い、勧告、命令前通知、命令、戒告、代執行令書という手続を進めています。

行政代執行を開始する直前には所有者から自主撤去の申し出があり、市はいったん執行を延期しました。しかし示された期限までに自主撤去されなかったため、最終的に3月24日と25日に除却が行われています。

この事例から「行政代執行には必ず2年以上かかる」と一般化することはできません。

危険性、所有者との連絡状況、必要な措置、自治体の判断などは案件ごとに異なります。

それでも、「危険だと分かった翌日に市が重機を入れて壊す」という制度ではないことはよく分かります。

行政代執行は実際に行われている

段階的な制度だからといって、行政代執行がほとんど存在しないわけではありません。

国土交通省が2025年12月に公表した全国調査によると、2015年の空家法施行から2025年3月31日までに、特定空家等への助言・指導は4万2,768件、勧告は4,153件、行政代執行と略式代執行は合わせて878件実施されています。

また、2023年改正で新設された管理不全空家等については、改正法施行から2025年3月31日までに指導3,211件、勧告378件。新設された緊急代執行も10市町で12件実施されました。

行政が最終的な強制措置を使うことは現実にあります。

一方、指導の件数と代執行の件数には大きな差があります。

制度の基本が、まず所有者自身による改善を求め、それでも解決しない案件でより強い措置へ進む構造になっていることが、この数字からもうかがえます。

なお、日本の空き家900万2千戸と代執行878件を直接比べて「行政代執行される確率は何%」と計算することはできません。

900万2千戸には賃貸・売却用住宅なども含まれ、特定空家等とは母集団がまったく異なるからです。

行政が壊した費用は誰が払う?

行政代執行という言葉から、「自治体が税金で無料解体してくれる」と受け取られることがあります。

しかし制度上はそうなっていません。

通常の行政代執行では、実際に代執行へ要した費用を義務者である所有者等から徴収するのが原則です。

行政代執行法では、実際に要した費用と納期限を記した文書で納付を命じ、支払われなければ国税滞納処分の例によって徴収できるとしています。

場合によっては財産の差押えや公売へ進むこともあります。

解体業者などへの支払いを自治体がいったん行ったとしても、それだけで「最終的に税金で所有者の家を片付けた」という意味にはなりません。

それでも費用を全額回収できないことはある

法律上、所有者等に請求できることと、現実に全額を回収できることは別問題です。

北海道旭川市が公表している事例では、2022年12月に行った特定空家等の行政代執行に199万1,000円を要しました。

所有者から支払いがなかったため、市は土地を差し押さえて公売し、2024年に売却。公売に必要だった費用を差し引き、65万200円を徴収しました。

しかし残る134万800円については、ほかに差し押さえられる財産がなく、支払能力もないと判断され、滞納処分の執行停止となっています。

一方、旭川市が過去に実施した別の行政代執行では、土地などを公売し、費用と延滞金を全額徴収できた例もあります。

「代執行費用は所有者負担」という法律上の原則はあっても、所有者に十分な財産がなければ、現実の回収には限界があります。

この問題も、自治体が行政代執行を最終手段として扱う背景の一つです。

何年も残っているからといって、必ず「放置」とは限らない

危険な家が長期間残っていれば、近隣住民から見て行政の対応が遅いと感じる場面はあるでしょう。

実際、空き家対策には所有者調査、法律や建築に関する専門知識、現地調査、人員などが必要で、自治体側にも課題があります。

一方、建物がまだ残っているという事実だけでは、「役所が何もしていない」とも判断できません。

所有者や相続人を調べている段階かもしれません。所有者へ繰り返し指導している途中かもしれず、勧告や命令に向けた手続が進んでいる場合もあります。

守口市の事例でも、道路から建物を眺めるだけでは分からない行政手続が数年にわたって続いていました。

だからといって、すべての自治体対応が常に十分だという意味でもありません。

空家法は全国共通ですが、実際にどの案件をどの段階で特定空家等と判断するか、現場でどのように対応するかには個別事情があります。

制度を知ることは行政を無条件に擁護することではなく、外からは見えにくい「なぜすぐ壊れないのか」の理由を一つずつ切り分けることにつながります。

近所に危険な空き家がある場合はどうすればいい?

近所の空き家から屋根材が落ちそう、外壁が道路側へ崩れそう、立木が倒れそうといった問題がある場合は、原則として空き家が所在する市区町村へ相談します。

担当部署の名称は自治体によって異なり、「空き家対策」「住宅」「建築指導」「都市整備」などさまざまです。自治体サイトで「空き家 相談」などと検索すると窓口を確認できます。

危険に見えるからといって、自分で敷地へ入ったり、塀や屋根材を動かしたりするのは避けるべきです。

空き家であっても私有財産であり、建物自体が不安定になっている可能性もあります。

倒壊や落下物などによって生命・身体への危険が目前に迫っている場合は、状況に応じて消防や警察への通報が必要になることもあります。

自治体へ相談したから必ず特定空家等になるわけではありませんが、行政が状況を把握するきっかけにはなります。

特定空家に指定されたら、すぐ解体される?

いいえ。

通常は助言・指導、勧告、命令と段階を進み、それでも必要な措置が行われない場合に行政代執行へ進む可能性があります。

特定空家等への措置は、建物全体の解体だけではなく、修繕や危険部分への対応、立木の伐採などの場合もあります。

特定空家になると固定資産税が6倍になる?

「特定空家に認定された瞬間、固定資産税が必ず6倍になる」という説明は正確ではありません。

住宅用地には固定資産税の課税標準を軽減する特例があり、管理不全空家等や特定空家等について市町村から勧告を受けると、一定の場合にその敷地が特例の対象から外れます。

課税標準の特例がなくなることと、実際の税額が一律に6倍になることは同じではありません。

所有者不明なら行政は空き家を壊せる?

条件を満たせば、略式代執行という制度があります。

ただし、「所有者がすぐ見つからなかった」というだけではなく、市町村が必要な調査を行っても、過失なく措置を命じるべき者を確知できないことなどが前提です。

財産管理人制度を利用して問題の解決を進める方法もあります。

今にも倒れそうなら、行政はすぐ撤去できる?

一定の非常時には、2023年に創設された緊急代執行という仕組みがあります。

ただし、すべての事前手続を飛ばして、初めて把握した建物をその場で全て解体できる制度ではありません。

空家法上の緊急代執行では助言・指導と勧告を経ている必要があり、所有者等を確知できない場合には略式代執行の仕組みを利用することになります。

自治体条例による緊急安全措置が別に用意されている地域もあります。

行政代執行の費用は誰が払う?

原則として所有者等です。

行政代執行法に基づき費用を徴収でき、支払われなければ財産の差押えや公売などへ進む場合があります。

ただし、所有者に十分な財産がない場合など、現実には全額を回収できないケースもあります。

まとめ|壊せないのではなく、「勝手には壊さない」

危険な空き家を自治体がすぐ壊さないのは、行政に取り壊す権限がまったくないからではありません。

現在の空家法には、特定空家等への助言・指導、勧告、命令があり、その先には行政代執行という強制的な措置まで用意されています。所有者を確知できない場合には略式代執行、一定の非常時には緊急代執行という制度もあります。

それでも通常は、建物の状態と周辺への危険を確認し、所有者を調べ、まず所有者自身に改善する機会を与えながら手続を進めます。

なぜなら、対象が危険な空き家であっても、それを行政が強制的に修繕したり取り壊したりすることは、個人の財産へ直接介入する非常に強い行為だからです。

その一方で、所有権を理由に周囲の安全が無期限に後回しにされる制度でもありません。2023年の改正では、特定空家等になる前の管理不全空家等への対応、緊急代執行、財産管理制度の活用なども強化されました。

近所から見ると「危険なのに、なぜまだ残っているのだろう」と感じる一軒の空き家。その背後には、地域の安全を確保しながら、他人の財産を行政が恣意的に処分しないための手続があります。

行政は危険な空き家を「壊せない」のではなく、必要な条件を確認しながら、勝手には壊さない仕組みになっているのです。

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