- ネクタリスとは?PCエンジン版レビュー|包囲・支援・ZOCで戦う戦略ゲーム
- 先に結論|「生産」を削ったことで、一体をどこへ置くかが重くなった
- 『ネクタリス』とは
- なぜ兵器を自由に生産できないのか
- ZOCは「敵を倒さなくても仕事ができる」仕組み
- 強い戦車を一台だけ突っ込ませると危険な理由
- 格上の兵器まで崩せる「包囲効果」
- 地形は「防御力が上がる場所」を探すだけではない
- 歩兵が弱いからこそ、守る意味がある
- 工場は兵器を作る場所ではなく、「固定戦力を奪い合う場所」
- 傷ついた部隊にも、まだ仕事が残っている
- 難しそうなジャンルなのに、タイトル画面から「MANUAL」へ入れる
- 初見では兵器の性能を見る。慣れると「次に敵が来る場所」を見る
- 負けたときに「次は何を変えるか」が見えやすい
- ハドソン自身が「詰め将棋やパズル」を目指していた
- 1997年には無料公開され、プレイヤーが「問題を作る側」に回った
- 通常16面の先には、同じ地形を別の問題へ変える「裏16面」がある
- それでも、一度解き方を理解すると「発見」は減っていく
- CPUは軽快だが、ユニットが増えれば待ち時間も伸びる
- 見た目は華やかではない。しかし盤面は読みやすい
- なぜA Tier・86点なのか
- なぜS Tier・90点には届かなかったのか
- 『ネオ・ネクタリス』は別作品として考えたい
- 2026年現在、公式復刻としてはPCエンジン miniに収録
- どんな人に向いている?
- 総評|強い駒ではなく、駒が強くなる場所を作る
ネクタリスとは?PCエンジン版レビュー|包囲・支援・ZOCで戦う戦略ゲーム

強い敵が目の前にいる。しかし、こちらには同じ性能の兵器を買い足す資金もなければ、工場で戦車を量産することもできない。
『ネクタリス』で残されている手段は、もっと単純だ。
味方を一歩前へ出す。別の部隊を隣へ置く。敵が通りたい場所を塞ぎ、地形の有利な場所へ陣取り、反対側へ回り込んで包囲する。同じ兵器でも、置いた場所と周囲の味方によって戦闘結果が変わる。
1989年2月9日にハドソンから発売されたPCエンジン用『ネクタリス』は、戦略シミュレーションから多くの要素を足して複雑にした作品ではない。むしろ兵器生産や資金管理を外し、各マップに用意された初期戦力と工場内の固定戦力だけで戦わせることで、「何を持っているか」より「どこに置くか」へ判断を集中させたゲームである。
つぶログの PCエンジン全ソフトTier表 では、『ネクタリス』をA Tier・86点・総合49位タイとしている。S Tierは90点以上なので、評価はかなり高い一方で最上位には届いていない。
なぜ入口の分かりやすさと、何手も先を読む戦術性を両立できたのか。そして、なぜその簡潔さが最後には86点の上限にもなるのか。
鍵になるのは、強い駒を増やすことではなく、弱い駒まで戦力になる盤面を作ることにある。
先に結論|「生産」を削ったことで、一体をどこへ置くかが重くなった
戦略ゲームから資金と生産を外せば、普通は考えることが減る。
『ネクタリス』でも確かに、どの兵器を何台作るか、限られた予算を何へ割り振るかといった判断は存在しない。敵や中立の工場を占領すれば、あらかじめ格納されていた兵器を自軍へ加えられるが、プレイヤーが好きなユニットを新たに生産する仕組みではない。撃破された部隊も、そのマップ中に金で買い戻すことはできない。
だからこそ、一体を失う意味が重くなる。
強い戦車だから前へ出せばいいとは限らない。単独で突っ込めば支援を受けられず、敵から包囲される危険もある。一方、火力の低い部隊でも敵の進路を塞ぎ、味方への支援を作り、包囲の一角を担えるなら、撃破数では測れない仕事をする。
資金や生産へ散っていた判断を削った代わりに、残されたユニット同士の位置関係へ意味を詰め込む。
『ネクタリス』の深さは、ルールの多さではなく、少ないルールが一つのHEX上で重なることから生まれている。
『ネクタリス』とは
『ネクタリス』は、1989年2月9日にハドソンから発売されたPCエンジン用の戦略シミュレーションゲーム。発売時価格は5,800円だった。
舞台は2089年の月面。月の資源を巡って人類と対立したガイチ帝国は月面を武力で支配し、地球攻撃用の最終兵器「MOA」の開発を進めている。プレイヤー側の連合軍は、最終兵器が存在するベース・ネクタリスを目指して戦う。KONAMIのPCエンジン mini公式ページでも、この設定が現在まで紹介されている。
ゲームは六角形のHEXで区切られたマップを使うターン制。通常ステージは全16面で、敵ユニットをすべて破壊するか、敵軍の収容所を占領すれば勝利となる。登場兵器は8カテゴリー23種類で、1ユニットは8機編成。戦車、歩兵、自走砲、航空機、輸送系、地雷など、それぞれ役割が異なる。
世界設定はSF戦争ものだが、プレイ中に最も長く向き合うのは物語ではない。
目の前の盤面だ。
なぜ兵器を自由に生産できないのか
『ネクタリス』では、各ステージに両軍の戦力があらかじめ配置されている。
敵や中立の工場を歩兵で占領すれば、工場内に格納されていた兵器を獲得できる。しかし、そこでも「何を生産するか」を選ぶわけではない。工場の中身まで含めて、そのマップに用意された戦力である。
この違いは大きい。
生産できるゲームなら、一体を失っても経済力さえ残っていれば補充できる。しかし『ネクタリス』では、失った戦力を自由に再生産できない。
すると「この敵を倒せるか」だけでは判断できなくなる。
倒せるとしても、こちらの重要部隊が大きく消耗するなら本当に攻撃すべきなのか。前線へ出すより、敵の動きを止める役として残した方が得ではないか。傷ついた部隊を工場へ戻して補給するのか、それとも戦闘力が落ちた状態でも前線でZOCを作らせるのか。
有限だから、一体の使い道を考える。
生産を削ったことは、戦略を減らすどころか、配置判断から逃げられなくする役割を果たしている。
ZOCは「敵を倒さなくても仕事ができる」仕組み
『ネクタリス』で兵器の見方を変える代表的な仕組みがZOC、Zone of Controlだ。
各ユニットの周囲6HEXには支配範囲があり、そこへ入った敵は強制的に停止する。その後もZOC内では移動が大きく制限されるため、撃破できない相手でも進路を妨害できる。
ここで「弱いユニット」の意味が変わる。
直接戦えば勝てないとしても、敵が工場や収容所へ向かう経路に置けば足止めになる。別の部隊と組み合わせれば通路を狭められ、敵をこちらが待ち構えている方向へ誘導することもできる。
戦車の攻撃力が100で、歩兵が30だから、戦車の方が常に価値が高いというゲームではない。
勝利条件や地形、ほかの味方との位置関係まで考えれば、撃たなくても一マスを占めているだけで価値を持つ駒が出てくる。
これが有限戦力と非常に相性がいい。
強い戦車を一台だけ突っ込ませると危険な理由
兵器単体の性能だけを見れば、強力な戦車や航空機を前へ出したくなる。
しかし『ネクタリス』には支援効果がある。
味方同士を適切に隣接させて戦えば攻撃側は有利になり、隣接する味方がいる状態で攻撃された場合には防御面でも恩恵を受けられる。同じユニットでも、孤立しているか、味方と部隊を形成しているかで強さが変わる。
そのため、高性能な一隊を孤立させることは、その性能を十分に生かせていないとも言える。
逆に、一隊では頼りなく見えるユニットでも複数で動かし、互いのZOCと支援を重ねれば、数字以上の強さを引き出せる。
兵器のスペック表を覚えることは重要だが、それだけでは足りない。
どの兵器を持っているかではなく、誰と並んで戦わせるか。
ここから『ネクタリス』は、一対一の強さを比べるゲームから部隊全体の形を作るゲームへ変わっていく。
格上の兵器まで崩せる「包囲効果」
そして、本作で配置の価値が最も分かりやすく表れるのが包囲だ。
敵の周囲を味方側のZOCで封じると包囲効果が発生し、敵の防御力が半減する。正面からぶつかれば不利な相手でも、周囲の味方を動かして逃げ場を塞ぐことで、戦力差そのものを小さくできる。
ここに『ネクタリス』ならではの気持ちよさがある。
性能で負けているなら、より強い兵器を生産してぶつける――という解決方法は使えない。
代わりに、敵の横へ回る。
別の一隊を反対側へ送る。
ZOCをつなぐ。
包囲が完成する。
その瞬間、さっきまで正面から戦えなかった敵が、攻略可能な相手へ変わる。
強い敵を倒したことより、「強い敵が弱くなる盤面を作れた」ことに手応えがある。
『ネクタリス』で一番面白い判断を一つ挙げるなら、ここになる。
地形は「防御力が上がる場所」を探すだけではない
月面には道路や荒地、丘など複数の地形があり、移動力の消費と防御効果が変化する。航空機のように地形の影響を受けにくいユニットもいる一方、ZOCの影響から完全に自由というわけではない。
地形効果を知ると、最初は「防御力の高い場所へ置こう」と考えるようになる。
しかし、そこからもう一段先がある。
防御に優れた場所でも、味方から離れれば支援を失うかもしれない。進路を塞ぐ場所へ移動したことで、次のターンに敵を包囲しやすくなる場合もある。工場を守るのか、収容所への道を塞ぐのかでも最適な位置は変わる。
だから地形、ZOC、支援、包囲は別々の知識ではない。
すべて、
「この一隊を、どこへ置くか」
という一つの判断へ集約されていく。
ルール数が少ないのに盤面が単調にならない理由は、ここにある。
歩兵が弱いからこそ、守る意味がある
火力だけを比較すれば、歩兵は戦車や航空機ほど目立たない。
しかし歩兵には、基地や収容所を占領できるという仕事がある。工場を取れば中に格納されている部隊を味方へ加えられ、敵収容所を取ればそれ自体が勝利条件になる。
つまり歩兵は、敵を倒す力では劣っても、勝利条件と戦力獲得へ直接触れられるユニットである。
ここでも性能と価値が一致しない。
歩兵を工場へ急がせれば強力な兵器を早く手に入れられるかもしれない。しかし護衛を付ければ前線の戦力は減る。かといって単独で進ませて失えば、施設を取る計画そのものが崩れる。
戦車を守るために歩兵を置くゲームではなく、歩兵を目的地へ届けるために戦車を使う場面さえある。
どの部隊が「主役」なのかは、盤面によって変わる。
工場は兵器を作る場所ではなく、「固定戦力を奪い合う場所」
工場は『ネクタリス』の設計思想をよく表している。
占領すると、中にあらかじめ格納されているユニットを獲得できる。また自軍の工場では、機数の減ったユニットを補給することもできる。
重要なのは、工場が資金を生み続けたり、好きな兵器を新規生産したりする施設ではないことだ。
どの工場に何が入っているかも、その工場がどこにあるかもマップ設計の一部になっている。
工場へ先に歩兵を到達させれば、一気に戦力が増えるかもしれない。
しかし、そのために主力を護衛へ回せば前線が薄くなる。
敵に取らせれば、その兵器を今度は相手が使う。
工場の争奪そのものが、そのマップに用意された戦力配分を変える。
資源を増やして軍隊を膨らませるのではなく、有限の戦力をどちらが確保するか。
ここでもゲームの焦点は、生産ではなく配置へ戻ってくる。
傷ついた部隊にも、まだ仕事が残っている
1ユニットは8機編成で、攻撃を受けて機数が減れば戦闘力も落ちる。自軍工場へ戻せば補給できるため、傷ついた部隊を回復させて前線へ戻すこともできる。
ただし工場へ戻るには、当然その間前線から離れる。
ここにも選択がある。
戦闘力が落ちた一隊を工場へ戻すのか。
それとも攻撃役としては弱くても、ZOCを作るために残すのか。
味方への支援要員として置くのか。
有限戦力だからこそ、「弱くなったから捨てる」という判断になりにくい。
『ネクタリス』では、部隊の残り機数だけでは価値を測れない。
まだどこに立てるかが、そのユニットの価値を決める。
難しそうなジャンルなのに、タイトル画面から「MANUAL」へ入れる
『ネクタリス』はHEX、ZOC、地形効果、包囲と、言葉だけ並べれば初心者を遠ざけそうなゲームでもある。
ところがタイトルメニューには「MANUAL」があり、ゲームの基礎を内部で学べる。メインのコマンドも4つに整理され、ユニットを選択すれば移動可能範囲がHEX上に表示され、敵味方の性能もゲーム内から確認できる。
ここで重要なのは、「初心者向けだから簡単」ということではない。
後半には難しい盤面が待っている。
それでも入口で覚えなければならない操作や管理項目を減らし、難しさをルールを理解することではなく、理解したルールをどう使うかへ移している。
生産がないことも、この思想とつながる。
複雑な軍事経済を先に覚えなくても、まず一隊を動かせる。そして遊びながら、「隣に置けば有利」「ここを通すと危ない」「囲めば格上にも勝てる」と配置の意味を学んでいく。
入口の軽さと後半の難しさは、矛盾していない。
初見では兵器の性能を見る。慣れると「次に敵が来る場所」を見る
遊び始めは、どうしても攻撃力や移動力の高いユニットが目に入る。
強い戦車を前へ出し、弱い敵から倒そうと考える。
しかしZOCと支援の意味が分かると、「この戦車は強いか」だけでなく、「ここへ置けば誰を支援できるか」を見るようになる。
さらに盤面を理解してくると、現在の敵位置だけを見る必要もなくなる。
この道を開けておけば敵はどこへ進むか。
ここに一隊を置けばZOCで進路を止められるか。
その次のターン、反対側へ回った味方と包囲できるか。
つまり熟練するほど、敵を攻撃するために配置するのではなく、敵が動いた後の盤面を先に作るようになる。
同じHEXを見るゲームでも、初見と理解後では見えている情報が違う。
この上達の分かりやすさが、本作の大きな強みだ。
負けたときに「次は何を変えるか」が見えやすい
有限戦力のゲームなので、失敗を「もっと資金を貯めて大量生産すればいい」で解決しにくい。
工場を敵に取られたなら、歩兵を動かす時期が遅かったのかもしれない。
強い敵に正面から負けたなら、単独で戦わせず支援を付ける方法がある。
こちらが包囲されたなら、ZOCを意識せず前へ出しすぎた可能性がある。
収容所を奪われたなら、攻撃へ戦力を寄せすぎたのかもしれない。
失敗の原因が盤面に残るため、
「次はもっと強くなってから」ではなく、「次は違う場所へ置こう」
という改善につながりやすい。
この性質が、『ネクタリス』を詰め将棋やパズルに近い感触へ寄せている。
ハドソン自身が「詰め将棋やパズル」を目指していた
『ネクタリス』を詰め将棋的と表現するのは、後世のプレイヤーによる比喩だけではない。
1998年にVectorがWindows版『NECTARIS』を紹介した記事には、ハドソン自身からのコメントが掲載されている。その中で、オリジナル開発当時から「詰め将棋とかパズルのようなおもしろさ」を目指していたと説明している。
この証言を踏まえると、生産をなくした意味がさらに分かりやすい。
資金を貯めれば自分で駒数を変えられるゲームでは、盤面そのものを固定した「問題」として設計しにくい。
『ネクタリス』では初期配置、工場の位置、工場の中身、地形、収容所まで制作者側が決められる。
つまり一つのマップを、
「この駒、この配置、この地形でどう解くか」
という問題として作れる。
ルールを減らしたのは、戦略性を捨てるためではなく、戦術問題の輪郭をはっきりさせるためだったと考えると、本作の構造がきれいにつながる。
1997年には無料公開され、プレイヤーが「問題を作る側」に回った
その後日談も興味深い。
ハドソンは1997年、Windows 95版『NECTARIS』をフリーソフトとして公開した。さらにユニット配置を編集できる仕組みを用意し、ユーザーから配置を募集するコンテストを開催。その優秀作品は後のPlayStation版とゲームボーイ版へ採用されたと、ハドソン自身が説明している。
これは「昔は無料で配られていた」という話以上の意味を持つ。
1989年版では、開発者が用意した盤面をプレイヤーが解いていた。
そのゲームが後には、プレイヤー自身にユニット配置を作らせても成立した。
物語や成長データを作らなくても、駒の種類と配置だけで新しい問題を生み出せるという『ネクタリス』の性格が、そのまま作品の展開方法にまで表れている。
本作の中心がどこにあったのかをよく示す後日談だ。
通常16面の先には、同じ地形を別の問題へ変える「裏16面」がある
通常ステージは16面だが、それだけでは終わらない。
各ステージ名は6文字のアルファベットで、そのままコンティニュー用パスワードになっている。この文字列を逆順に入力すると、同じマップを使いながら初期配置などを変えた高難度の裏ステージへ挑戦できる。裏側も16面用意されている。
同じ地形を再利用するというだけなら、内容の水増しにも見える。
しかし『ネクタリス』の場合、配置が変わるだけで戦場の意味が変わる。
前のマップでは安全だった通路が危険になる。
同じ工場でも、そこへ到達する難しさが変わる。
同じ地形でも、敵味方の戦力と位置関係を変えれば違う問題になる。
これはハドソンが語った「パズルのようなおもしろさ」と非常に相性がいい。
それでも、一度解き方を理解すると「発見」は減っていく
ここが86点の境界になる。
『ネクタリス』は、初見の盤面を読む時間が面白い。
どこへ進めばいいのか。どの工場を先に取るのか。強敵をどう囲むのか。どこへ歩兵を通すのか。
しかし同じマップを繰り返し、敵の初期配置や工場の位置、CPUの行動傾向まで理解してくると、ゲームの性格は少しずつ変わる。
最初は「どうすれば勝てるか」を考えていたものが、やがて「前に見つけた勝ち方をどう再現するか」へ近づく。
もちろん完全な一本道の唯一解があると断定する必要はない。攻める順番や戦力の使い方には幅がある。
それでも、資金、生産、恒久的な部隊育成、自由編成といった長期変数を持たない以上、同じ盤面から生まれる未知の量には上限がある。
問題を理解できることは上達の証拠であり、同時に再挑戦時の驚きが減る理由にもなる。
この表裏が『ネクタリス』らしい。
CPUは軽快だが、ユニットが増えれば待ち時間も伸びる
CPUについては「弱いからパズルになる」と単純化しない方がいい。
GAME Watchの検証では、操作レスポンスは良好で、CPUの思考速度も比較的速いと評価されている。一方、ユニット数が増えれば思考時間も長くなる。
盤面へ慣れればCPUの行動傾向を読んで誘導する余地も生まれるが、それは戦術ゲームの学習とも言える。
問題なのは、敵の傾向まで把握した後には、未知の相手との読み合いより、既知の盤面を処理する比重が高まりやすいことだ。
S Tierへ届かなかった理由は「CPUが弱い」の一言ではなく、固定盤面と固定戦力を読み切った後に、戦術の発見量がどう変化するかの方にある。
見た目は華やかではない。しかし盤面は読みやすい
1989年のHuCARD作品であり、戦闘演出や戦場背景の派手さを前面に押し出すゲームではない。
ただし、だから映像面がそのまま欠点になるわけでもない。
HEX上には必要なユニットと施設が明確に配置され、移動時には行動範囲が表示される。カーソルを合わせれば地形効果も確認でき、敵味方のユニット性能もゲーム内から調べられる。
盤面を読むゲームとして必要な情報は把握しやすい。
一方で、16面を進めていく過程で、戦場そのものの映像や演出が劇的に変わり続けるタイプではない。物語演出や長期育成で次の面へ引っ張る作品でもない。
機能性は高いが、戦術問題を解くこと以外の牽引力は控えめ。
PCエンジン全ソフトTierで映像・音響を「機能性優先で華やかさは控えめ」と評価した理由もここにある。
なぜA Tier・86点なのか
『ネクタリス』が86点まで届いた理由は、生産をなくしたことそのものではない。
生産をなくして生まれた空白を、配置の意味で埋め切っていることが強い。
六角形マップでは、一マス動くだけで地形が変わる。
一隊を隣へ置けば支援が変わる。
敵の進路へ出ればZOCが働く。
回り込めば包囲を狙える。
歩兵なら施設を占領できる。
工場を取れば、マップに固定された新たな戦力を得られる。
傷ついた部隊でも、前線に残せばZOCや支援の役割を持てる。
「何を生産するか」という大きな選択肢を削った代わりに、一マスの中へ複数の判断を重ねた。
だから入口は軽いのに浅くならない。
ゲーム内MANUALや少ないコマンドで基本を覚えた後、ルールを追加で暗記するのではなく、すでに知っているルールの組み合わせ方を上達させていける。
A Tier上位として86点を付けられるのは、この完成度があるからだ。
なぜS Tier・90点には届かなかったのか
同時に、86点で止まった理由も設計の長所と同じ場所にある。
生産も恒久的な軍育成もないから、一面ごとの問題が明快になる。
しかし、それはキャンペーン全体を通して自分だけの軍隊を育てたり、毎回違う経済状況から編成を作ったりする広がりを持たないことでもある。
固定された盤面を理解すればするほど、初見で感じた「どう解くのか」という未知は小さくなる。裏16面は高難度の問題を追加してくれるが、ゲームの基本構造そのものが別の遊びへ変化するわけではない。
さらにユニット数の多い局面ではCPUの思考待ちが長くなり、映像・音響も戦術を読みやすくする機能性に比べれば、キャンペーンを進める演出的な変化は控えめだ。
つまり、
ルールを絞ったからこそ戦術が際立った。
しかし、絞ったからこそ、その戦術を理解した後に残る広がりにも限界がある。
これが86点と90点の境界になる。
『ネオ・ネクタリス』は別作品として考えたい
1994年にはPCエンジンSUPER CD-ROM²向けの続編『ネオ・ネクタリス』が発売されている。
つぶログのPCエンジンTierでは『ネオ・ネクタリス』を87点、『ネクタリス』を86点としているが、1点高いからといって初代の完全上位互換という意味ではない。『ネオ・ネクタリス』は新たなユニットやマップなどを加え、初代の戦術核を拡張した作品である一方、初代には要素を絞ったからこそ盤面の意味が見えやすいという強さがある。
今回の86点は、あくまで1989年2月9日の日本国内PCエンジンHuCARD版への評価である。
Windows版、PlayStation版、ゲームボーイ版、2009年前後のリメイク版などの追加要素も混ぜていない。
2026年現在、公式復刻としてはPCエンジン miniに収録
2026年8月時点で、1989年版を基にした公式復刻として確認しやすいのがPCエンジン miniだ。
KONAMIの公式ラインナップには日本向けPCエンジン作品として『ネクタリス』が収録され、海外タイトル側には英語版『MILITARY MADNESS』も収録されている。一台の収録ラインナップに、日本版と海外版の双方が含まれている。
PCエンジン mini側の機能によって中断なども利用できるため、1989年当時より再挑戦しやすい。ただしこれはHuCARD原版そのものに存在した機能ではない。
過去にはWiiバーチャルコンソールでも配信されたが、現在の新規購入手段としては扱えない。また現在販売されている後年の『Military Madness』系商品にはリメイク版も存在するため、1989年PCエンジン版と同一商品として考えるべきではない。
PCエンジン mini自体も現行機向けのダウンロードストア商品ではないので、『ネクタリス』だけを今すぐ単品購入できる環境が整っている作品とは言いにくい。
どんな人に向いている?
『ネクタリス』と相性がいいのは、大規模な国家運営や資源経済より、目の前の盤面で一手の意味を考えることが好きな人だ。
ユニットを育てて数字で押すより、「この一隊を一マス横へ置けば敵を止められる」「ここへ歩兵を通せば工場を奪える」と気づくことに面白さを感じるなら、本作の簡潔さは大きな長所になる。
逆に、キャンペーンを通した部隊育成、自由な軍編成、資源管理、大量生産といった長期的な戦略要素を求める人には物足りない可能性がある。また、一度解法が見えたマップを何度も違う条件で遊び続けたい場合も、固定戦力中心の設計は広がりの上限になりやすい。
覚えるルールの少なさを求める人と、簡単なゲームを求める人も同じではない。
入口は軽い。
問題は、きちんと難しい。
その組み合わせを楽しめるかどうかが大きい。
総評|強い駒ではなく、駒が強くなる場所を作る
『ネクタリス』では、強い敵を見つけても、その場で対抗兵器を生産することはできない。
だから盤面を見る。
味方を寄せる。
敵の進路を止める。
地形を使う。
歩兵を守る。
工場を取る。
回り込んで包囲する。
こうして一隊一隊の位置を組み替えるうちに、さっきまで勝てなかった敵との戦力差が変わっていく。
本作が巧いのは、この深さへ到達するために大量のシステムを覚えさせないことだ。
資金も生産も削り、主要なコマンドも絞る。
その代わり、地形、ZOC、支援、包囲、相性、占領をすべて「どこに置くか」へ重ねる。
ハドソン自身が後年、オリジナル開発時から詰め将棋やパズルのような面白さを目指したと説明したのも、この構造を見ればよく分かる。
一方、盤面と敵の動きを理解すればするほど、未知の問題を解く感覚が既知の解法を実行する感覚へ近づく。長期育成や自由編成によって別のゲームへ変化していく作品でもなく、演出面も機能性を優先している。
だからS Tierではない。
それでも、戦略ゲームを分かりやすくするために戦術まで薄くするのではなく、考える対象を絞ることで一手を濃くした設計は強い。
A Tier・86点、PCエンジン全体49位タイ。
『ネクタリス』は、強い兵器を持っている側が勝つゲームではない。
弱い兵器でも強くなれる場所を、盤面の上に作った側が勝つゲームである。