防災・災害

水没した車はエンジンをかけてはいけない?水が引いた後も危険な理由と対処法

目次
  1. 水没した車はエンジンをかけてはいけない?水が引いた後の対処法・EV/HVの注意点
  2. 「水没」「浸水」「冠水」は同じ意味?
  3. 水が引いたのに、なぜエンジンをかけてはいけない?
  4. 「エンジンがかかった」「家まで走れた」なら大丈夫?
  5. どこまで水に浸かったら危険?「○cmまで安全」とは言えない
  6. 走行中に冠水したら、車より人の安全を優先する
  7. ガソリン車・ディーゼル車・HV・PHEV・EVで何が違う?
  8. 「水没したEVは必ず感電する」「必ず燃える」も正しくない
  9. 12Vバッテリーのマイナス端子は自分で外すべき?
  10. 水没した車でやってはいけないこと
  11. 水没車はどうやって移動する?自走せず専門業者へ
  12. 煙・焦げ臭さ・異音・発熱があるなら車から離れる
  13. 海水や高潮で浸かった車は、淡水と同じではない
  14. 泥水が車内へ入った場合、いきなり清掃を始めない
  15. 水没車は修理できる?シートまで浸かったら廃車?
  16. 安全なら片付け前に被害状況を写真で残す
  17. 水没車の車両保険は使える?洪水と津波では扱いが違う
  18. 保険会社にはいつ連絡する?修理・廃車を先に進めない
  19. 水没した車の保険請求に罹災証明書は必要?
  20. 水没した車を見つけてから修理・廃車を決めるまで
  21. よくある疑問
  22. まとめ|水が引いて見た目が戻っても「試しに始動」はしない
  23. 主な参考情報

水没した車はエンジンをかけてはいけない?水が引いた後の対処法・EV/HVの注意点

水が引いた冠水後の駐車場に停まる泥で汚れた車と、エンジン始動を禁止するマーク

水に浸かった可能性がある車は、水が引いていても自分でエンジンをかけないでください。

「動くかどうか一度だけ試す」「セルを少し回す」「POWERスイッチを押してみる」といった確認も避けます。走れる状態に見えても、自走して整備工場へ持ち込まないでください。

ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHEV/PHV)、電気自動車(BEV/EV)など、高電圧系統を持つ車にはむやみに触れず、ロードサービス、販売店、整備工場などへ相談してください。

大雨や河川氾濫のあと、駐車場の水が引いて車が元の姿に戻ると、「とりあえずエンジンがかかるか確かめたい」と考えたくなります。

しかし、水が引いたことと、車の内部から水や故障の原因がなくなったことは同じではありません。

国土交通省は、浸水・冠水した車について、外観上は問題がなさそうでも感電や電気系統のショートによる車両火災のおそれがあるとして、自分でエンジンをかけないよう注意を呼びかけています。さらに、水が引いた後についても始動せず、一度浸水した車は運転可能であっても点検整備を受けるよう案内しています。

この記事では「なぜ始動してはいけないのか」だけでなく、ガソリン車・ディーゼル車・HV・PHEV・EVの違い、水位だけでは安全性を判断できない理由、レッカー、修理・廃車、車両保険まで順番に整理します。

「水没」「浸水」「冠水」は同じ意味?

普段の会話ではまとめて「水没車」と呼ばれることがありますが、公的な案内では「浸水・冠水被害を受けた車両」といった表現が使われています。

表現この記事での意味
道路が冠水道路上に水がたまっている状態
車両が冠水・浸水車体が水に浸かったり、車体内部へ水が入ったりした状態を広く指す
車内へ浸水客室の床や内装まで実際に水が入った状態
水没車一般に広く使われる表現。全国共通の「○cm以上なら水没車」という判定基準としては扱わない

大切なのは呼び方より、どこまで、どのような水に、どれくらいの時間さらされたのかです。

水が引いたのに、なぜエンジンをかけてはいけない?

車の表面が乾いていても、吸気系、電気配線、コネクター、床下、電子装置など、外から見えない場所まで元通りになっているとは限りません。

水没後の始動が危険なのは、「エンジンに水が入るから」だけではありません。内燃機関、電気・電子装置、バッテリーなど複数の問題を考える必要があります。

吸気系やエンジン内部に水が入っている可能性がある

ガソリン車やディーゼル車は、走行するために外気を吸い込みます。冠水時には、水しぶきや波がエンジンルームへ入り、吸気口からエアクリーナー、さらに吸気系へ水が届く可能性があります。

国土交通省も、水深が車両の床面より低い場合であっても、速度が上がることで車が水を巻き上げ、吸気口から水が入ってエンジン停止につながる可能性を示しています。

水がシリンダー内部まで入った状態でエンジンを無理に回せば、機械的な損傷につながることがあります。一般に「ハイドロロック」「ウォーターハンマー」などと呼ばれる現象がありますが、一般の利用者がエアクリーナーを外したり、プラグを抜いたりして確認する必要はありません。

内部に水が入っているか外観だけでは判断できないからこそ、試しにセルを回さないことが重要です。

「マフラーが水に浸かったから止まる」だけではない

冠水した車について、「マフラーが水に浸かるとエンジンが止まる」と説明されることがあります。

排気側からの浸水や水圧も不具合の要因になり得ますが、それだけを原因と考えるのは正確ではありません。国土交通省は、吸気口からの浸水、電気装置の損傷、モーターや駆動用バッテリーへの影響など、複数の不具合を挙げています。

「マフラーが水面より上だったから大丈夫」と判断することもできません。

電気系統はエンジンを止めていても無関係ではない

現在の車には、エンジンを制御するECUだけでなく、各種センサー、コネクター、ヒューズ、エアバッグ関連装置、ABS、電動パワーステアリング、安全運転支援システムなど、多数の電気・電子装置があります。

水に浸かったあと、見える部分が乾いたとしても、コネクター内部や床下、配線周辺まで同じ状態とは限りません。

国土交通省やJAFが、水が引いた後も始動しないよう注意している理由の一つが、こうした電気系統のショートや火災のおそれです。

「エンジンがかかった」「家まで走れた」なら大丈夫?

大丈夫とは判断できません。

国土交通省は、一度浸水した車について、運転可能であっても電気装置などが損傷しているおそれがあるため、整備工場等で点検整備を受けるよう案内しています。

これは実験結果からも分かります。

JAFは2024年10月、BEV、HV、ガソリン車を使って、水深30cmと60cmの冠水路走行試験を実施しました。

水深30cm・時速30kmでは3車種とも走り切っていますが、BEVとHVではボンネット内部への浸水、ガソリン車では車内とボンネット内部への浸水が確認されました。

水深60cm・時速30kmでは、BEVは走り切ったものの複数の警告灯が点灯。HVとガソリン車も走り切りましたが、エアクリーナーが完全に濡れていました。時速40kmではHVが走行後にエンジン停止、ガソリン車は途中で停止しています。

ここで重要なのは「30cmなら走れる」という意味ではないことです。試験は管理されたコースでプロのスタントマンが行ったもので、JAF自身も実際の冠水路へ安易に進入しないよう呼びかけています。

JAF公式「冠水路走行テスト~電気自動車やハイブリッド車でも検証~」

どこまで水に浸かったら危険?「○cmまで安全」とは言えない

冠水時によく検索されるのが、「タイヤの半分までなら大丈夫?」「何cmまで走れる?」という疑問です。

国土交通省は、水深が車両の床面を超えるとエンジンや電気装置などに不具合が起きるおそれがあるとしています。床面は非常に重要な目安ですが、そこを境に「床面より下なら安全」となるわけではありません。

水深が床面以下でも、走行速度が上がれば車が巻き上げた水や波が吸気口へ入り得ます。さらに車高、車体形状、吸気口の位置、電装品の配置、水流、走行速度によって状況は変わります。

水が見える位置起こり得る影響注意点
タイヤ周辺足回りやブレーキ等が水に接するこの高さだけを見て安全とは判定できない
床面付近車内や電装品への浸水リスクが高まる国交省が重大な不具合の目安として示している高さ
車内床内装、配線、車種によっては電子部品等へ影響部品配置は車種ごとに異なる
シート下シート機構、配線、車種によって配置された電子部品などへ影響し得る「ECUは必ずシート下」とは限らない
座面付近客室の広範囲に水・泥が到達する可能性この高さだけで廃車や全損とは決められない
ダッシュボード付近多数の電気・電子装置が影響を受ける可能性修理可否・全損判定は点検と査定で決まる

この表は「走行できる水深」を示すものではありません。少しでも冠水した道路では、水深そのものが分からないことも多く、開いたマンホール、側溝、水流など車両故障以外の危険もあります。

走行中に冠水したら、車より人の安全を優先する

この記事は「水が引いた後」が中心ですが、冠水路を走行中に水が増えてきた場合は話が変わります。

  • 深い冠水路へ進入しない
  • 水流のある場所へ無理に入らない
  • 車が停止しても再始動だけに固執しない
  • 水没・漂流のおそれがあるなら、車を守ることより脱出を優先する
  • 安全な場所へ避難したあと、荷物を取りに危険区域へ戻らない

国土交通省によると、水深がドア下端にかかると水圧でドアを開けにくくなり、ドア高さの半分を超えると内側からほぼ開けられなくなるおそれがあります。

水位が上がっている最中は、「車を壊さないために何をするか」ではなく、「安全に車外へ出られるうちにどう動くか」が先です。

ガソリン車・ディーゼル車・HV・PHEV・EVで何が違う?

水没後に「始動しない」という基本は共通していますが、搭載されているシステムは同じではありません。特に高電圧系統を持つ車は、一般的なガソリン車と同じ感覚で触らないことが重要です。

車種主な駆動方式主な注意点高電圧系統水没後の起動確認基本対応
ガソリン車エンジン吸気系、エンジン、電装品、ブレーキ等通常の駆動用高電圧系統はなししない販売店・整備工場・ロードサービスへ相談
ディーゼル車エンジン吸気系、エンジン、電装品、ブレーキ等通常の駆動用高電圧系統はなししない販売店・整備工場・ロードサービスへ相談
HVエンジン+モーター内燃機関系に加え、駆動用バッテリー、インバーター、高電圧配線ありしない自分で高電圧系統へ触れない
PHEV/PHVエンジン+モーターHVの注意点に加え、外部充電・給電系統ありしない・充電もしない販売店・専門業者へ
BEV/EVモーター駆動用バッテリー、インバーター、高電圧配線、電装系ありPOWER/READY確認をしない充電・外部給電もせず専門家へ
FCV燃料電池+モーター高電圧系統に加え、高圧水素システムありしない自己処置せず販売店・専門業者へ

HVは「ガソリン車と同じ」と考えない

HVにはエンジンだけでなく、駆動用モーター、高電圧の駆動用バッテリー、インバーター、高電圧配線などがあります。

消防機関向けの次世代自動車事故対応資料でも、高電圧系統を扱う際には絶縁保護具などを用いた安全対策が前提とされています。一般利用者がサービスプラグや高電圧ケーブルを操作するための手順ではありません。

特にオレンジ色の高電圧ケーブルや高電圧部品には触れないでください。

EVはエンジンがなくても「電源を入れてよい」わけではない

EVには一般的な意味でのエンジンはありません。そのため「エンジンをかけない」という注意だけでは、「POWERスイッチなら押してよいのか」という疑問が残ります。

浸水後は、車両システムを起動してREADY状態にしたり、充電して動作確認したりするのではなく、点検を受けるまで使用しないという考え方が安全です。

経済産業省も、電動車を災害時の非常用電源として活用できることを紹介する一方で、浸水・冠水した車両は感電・火災のおそれがあるため使用しないと注意しています。

つまり、「EVは災害時に家へ給電できる」と「水没したEVから給電してよい」はまったく別の話です。浸水したEV・PHEVでV2HやAC外部給電を試してはいけません。

「水没したEVは必ず感電する」「必ず燃える」も正しくない

電動車については、逆方向の誤解にも注意が必要です。

EVやHVは、通常使用時の雨や洗車ですぐ感電するような構造ではありません。高電圧系統には安全対策が設けられています。

一方、事故や浸水によって車両が損傷した場合は、正常な車と同じ状態だと利用者が判断することはできません。だからこそ国土交通省やメーカーは、高電圧バッテリーを搭載する浸水車へむやみに触れないよう注意しています。

「水没EVは必ず感電する」「必ず発火する」と煽る必要はありません。しかし「何も起きていないように見えるから安全」と判断することもできません。

12Vバッテリーのマイナス端子は自分で外すべき?

ここは水没車の情報で特に誤解しやすい部分です。

国土交通省やJAFの案内には、冠水車について、発火防止のためバッテリーのマイナス側端子を外すという内容があります。

ただし、国土交通省は別の現行案内で、電気自動車、プラグインハイブリッド車、ハイブリッド車については高電圧バッテリーを搭載しているため、自分で対処せず整備工場等へ相談すると明確に分けています。JAFもHV・BEVはむやみに触らないよう案内しています。

12V系と高電圧系は同じではありません。

12V補機バッテリーの端子を外すこと、車両のPOWERをOFFにすること、高電圧システムを専門手順で遮断することは、それぞれ別の操作です。「12Vの端子を外したからEVやHVの高電圧部分も触ってよい」とは考えないでください。

ガソリン車やディーゼル車についても、周囲に水が残っている、バッテリー位置が分からない、工具や作業経験がない、車体へ近づくこと自体に危険がある場合まで、無理に自分で端子を外す必要はありません。

この記事では「水没したら誰でも必ず自分でバッテリー端子を外す」という手順にはしません。車種の取扱説明書を確認し、不明ならロードサービスや販売店へ任せるのが安全です。

水没した車でやってはいけないこと

  • 状態確認のためにエンジンをかける
  • エンジンスタートボタンやPOWERスイッチを試しに押す
  • 始動できないからと何度も再始動する
  • 「少しなら走れそう」と自走する
  • ジャンプスタートで無理に起動させる
  • 浸水したEV・PHEVを充電して状態確認する
  • 浸水した電動車からV2HやAC外部給電を行う
  • オレンジ色の高電圧ケーブルや高電圧部品へ触れる
  • 駆動用バッテリーや電装部品を自分で分解する
  • 車を確認するためだけに流れのある冠水区域へ入る

「一回だけ」「数秒だけ」「セルを回すだけ」も、動作確認のための始動であることに変わりません。

水没車はどうやって移動する?自走せず専門業者へ

水没車を点検してもらう場合も、自分でエンジンをかけて整備工場まで走るのではなく、JAF、保険会社のロードサービス、販売店、整備工場などへ相談します。

レッカー方法も全車共通ではありません。

駆動方式、4WDかどうか、電動パーキングやシフト制御の状態、EV・HVの駆動系などによって、車輪を接地させてよいか、車両運搬車を使うかといった条件が変わります。

メーカーの取扱説明書でも、けん引を販売店や専門業者へ依頼するよう案内している車種があります。車種固有の手順をネットで探して自己流でけん引するより、車種と損傷状況を業者へ伝えて任せる方が確実です。

同じ理由で、パーキングロックやシフトを解除するために車両システムを起動し、「みんなで押して移動する」という方法も自己判断では勧められません。

煙・焦げ臭さ・異音・発熱があるなら車から離れる

水没後の車から煙や火が見える、明らかな焦げ臭さがある、異常な発熱や音がある場合は、状態を近くで確認しようとしないでください。

車から離れ、周囲の人にも近づかせず、安全を確保したうえで119番へ通報します。

特に大型の駆動用バッテリーを搭載した電動車について、一般利用者がバッテリー火災の消火方法を自己判断で試す記事にはできません。消防機関向けには絶縁対策や高電圧遮断、バッテリー冷却など専門的な活動手順が定められており、一般利用者が行う作業とは分けて考える必要があります。

海水や高潮で浸かった車は、淡水と同じではない

河川の氾濫や大雨だけでなく、高潮や津波で車が海水に浸かることもあります。

JAFは、海水に含まれる塩分が電気配線などの短絡を引き起こし、水が引いた後も腐食が急速に進むとして注意を呼びかけています。実際に高潮で海水に浸かった車両が、その後自然発火した事例も紹介されています。

ただし、「海水に浸かったら必ず廃車」「淡水なら修理できる」という単純な分け方はできません。

浸水した高さ、時間、水質、泥や異物、車種、電装品やバッテリーの位置、修理費などを点検して判断します。

また、津波の場合は車両そのものの安全だけでなく、人が車へ戻ること自体が危険です。津波警報等が出ている状況では、車や荷物を確認するために戻ってはいけません。「海が引いたかどうか」で避難開始を判断できない理由は、「津波は海が引いてから来る?『引き潮を確認してから逃げる』が危険な理由」で詳しく整理しています。

泥水が車内へ入った場合、いきなり清掃を始めない

車内へ泥水が入ると、カーペットやシートだけでなく、その下の吸音材、配線、コネクターなどにも水や泥が残っている場合があります。

水をかき出したり内装を外したりする前に、まず車両の電気的な安全を確認する必要があります。特にHV・PHEV・EVでは、高電圧部品がどこに配置されているかを一般ユーザーが見た目だけで判断するべきではありません。

汚水や下水が混じっている場合は衛生面の問題もありますが、「消毒剤をまけば車として安全になる」という話ではありません。車両として再使用できるかは、電装品や駆動系を含めた専門点検で判断します。

水没車は修理できる?シートまで浸かったら廃車?

水没車が修理できるかどうかを、水位だけで決めることはできません。

「シート下までなら修理」「座面まで来たら廃車」「ダッシュボードまでなら必ず全損」といった全国共通の判定表はありません。

実際には、次のような条件が重なって判断されます。

  • どこまで水に浸かったか
  • 浸水していた時間
  • 淡水、泥水、海水など水の性質
  • エンジンや吸気系へ水が入ったか
  • 電装品の配置と損傷範囲
  • 駆動用バッテリーや高電圧系統の状態
  • ブレーキや駆動系への影響
  • 交換が必要な部品と部品代
  • 車両の時価・車両保険金額との関係

ここでも、「技術的には修理できる」と「費用をかけて修理するのが合理的」は別の話です。

安全なら片付け前に被害状況を写真で残す

水が引き、周囲に流れや火災、崩落などの危険がなく、安全な場所から撮影できるなら、修理や移動を始める前に被害状況を写真で残しておくと、その後の保険手続きなどで役立つことがあります。

車両全体、浸水した高さが分かる跡、車内、周囲の被災状況などを、無理のない範囲で残します。

ただし、写真を撮るために水の残る場所へ入り直したり、津波や増水の危険が残る区域へ戻ったりしてはいけません。

住宅を含めた水害の被害記録については、「家が水浸しになったら最初に何をする?片付ける前に残したい『被害写真』の撮り方」でも、撮るべき場所や安全上の注意を詳しく整理しています。

水没車の車両保険は使える?洪水と津波では扱いが違う

水没後は車の安全だけでなく、「修理費をどうするのか」も大きな問題になります。

日本損害保険協会によると、車両保険では、契約内容に応じて台風・洪水・高潮などによる損害が補償対象となります。

ただし、「車両保険に入っていれば必ず全額支払われる」とは限りません。契約している補償タイプ、車両保険金額、免責金額などによって扱いが変わります。

台風・洪水・高潮と、地震による津波を混同しない

海水で車が水没した場合でも、保険上は原因が重要です。

原因一般的な車両保険での考え方
台風・洪水・高潮など車両保険の補償対象となる契約がある。契約タイプを確認
地震・噴火、またはこれらによる津波通常の車両保険では原則として補償対象外。別途特約が用意される場合がある

つまり、同じ「海水に浸かった車」でも、台風による高潮と、地震による津波では同じ扱いとは限りません。

「全損」は車が完全に壊れたという意味だけではない

保険でいう「全損」と、物理的に車が完全破壊された状態は同じ意味ではありません。

日本損害保険協会は、車両保険の全損について、車全体が滅失した場合だけでなく、修理費が保険価額を上回る場合なども例として示しています。

水没車が動かせる状態でも、修理に非常に大きな費用がかかり、保険上は全損として扱われることがあります。反対に「水没した」というだけで自動的に全損になるわけでもありません。

保険会社にはいつ連絡する?修理・廃車を先に進めない

保険より先に、人の安全と車両の火災・感電リスクを確認します。そのうえで、ロードサービスや販売店などと並行して、契約している保険会社や代理店へ早めに連絡します。

特に本格的な修理や廃車処理を決める前には、保険会社の確認を受けた方がよいでしょう。

確認したいのは、車両保険の有無だけではありません。

  • 今回の水害が契約上の補償対象か
  • 免責金額はいくらか
  • 車両保険金額はいくらか
  • 全損・分損をどう判断するか
  • レッカーや搬送費用の扱い
  • 代車・レンタカー関連の補償
  • 保険を使用した場合の等級への影響

これらは保険会社・商品・契約内容によって違います。特定の保険会社の条件を全国共通ルールとして考えないでください。

水没した車の保険請求に罹災証明書は必要?

2026年9月9日に日本損害保険協会が公表した大雨災害の案内では、損害保険の保険金等の請求について、地方自治体が交付する罹災証明書の提出は原則不要とされています。

そのため、「車両保険を請求するなら、まず市役所で罹災証明書を取らなければ何も進められない」と考える必要はありません。

ただし、保険会社から求められる写真や事故状況の資料、自治体の別の支援制度などは話が別です。必要書類は契約先と利用する制度ごとに確認してください。

住宅の床上浸水・床下浸水と住家被害認定、罹災証明書の関係は、「床上浸水と床下浸水は何が違う?被害認定・片付け・修理への影響」で整理しています。

水没した車を見つけてから修理・廃車を決めるまで

基本の流れ

  1. まず人の安全を確保する
  2. 冠水や水流、津波、火災などの危険が残る間は車へ近づかない
  3. 水が引いてもエンジン・車両システムを起動しない
  4. HV・PHEV・EVなどの高電圧系統へむやみに触れない
  5. 安全な場所から可能な範囲で被害状況を記録する
  6. ロードサービス、販売店、整備工場へ相談する
  7. 必要に応じて保険会社・代理店へ連絡する
  8. 車種に合った方法で専門業者に搬送してもらう
  9. 点検・修理見積もりと保険査定を進める
  10. 結果を踏まえて修理か廃車かを判断する

自宅も被災している場合、「車を直すこと」より先に生活の安全を確保する必要があります。建物の安全が確認でき、自宅で生活を続けられるか判断するときは、「避難所に行かず家にいてもいい?『在宅避難』ができる条件と支援物資の受け取り方」も参考になります。

よくある疑問

水が引けばエンジンをかけてもいい?

いいえ。国土交通省は、水が引いた後もエンジンをかけないよう案内しています。外から乾いて見えることは、安全確認にはなりません。

翌日まで乾かせば大丈夫?

「一晩乾燥させれば始動できる」という公的な安全基準はありません。車内表面が乾いていても、吸気系、コネクター、配線、床下などの状態までは判断できないため、点検を受けてください。

セルを一瞬回すだけならいい?

勧められません。「一回だけ」「数秒だけ」でも自己始動です。内部浸水の有無を確認する前に動作確認しないことが基本です。

一度エンジンがかかったなら安全?

安全とは判断できません。国土交通省は、一度浸水した車は運転できても電気装置等が損傷している可能性があるとして、点検整備を求めています。

警告灯が出ていなければ走っていい?

警告灯が出ないことだけで安全性を確認することはできません。ブレーキ、電装品、吸気系など、警告灯の有無だけでは判断できない部分があります。

車内に水が入っていなければ大丈夫?

必ずしもそうではありません。国土交通省は、床面以下の水深でも、走行速度によって巻き上げた水が吸気口へ入る可能性を示しています。JAFの試験でも、車内浸水が目立たない車でボンネット内部やエアクリーナーへの浸水が確認されています。

タイヤの半分までなら大丈夫?

「タイヤの半分までなら安全」という全国共通の基準はありません。車高や吸気口の位置、速度、水流などで状況が変わります。冠水路へ進入しないことが基本です。

床面まで水が来たら危険?

床面は国土交通省が重大な不具合のおそれを示す重要な目安です。ただし、「床面より少し下なら安全」という意味ではありません。

マフラーに水が入ったら壊れる?

排気側からの浸水や水圧でエンジンが停止する可能性はありますが、冠水車の問題はマフラーだけではありません。吸気口からの浸水や電装品への影響もあります。

EVならエンジンがないからPOWERを入れていい?

状態確認のために起動しないでください。EVは高電圧の駆動用バッテリーや電装系を搭載しており、浸水後は正常車と同じ扱いにできません。

水没したEVを充電して確認してもいい?

点検前に自己判断で充電して動作確認することは避けます。販売店や整備工場へ相談してください。

水没EVから家へ給電してもいい?

使用しないでください。経済産業省は、浸水・冠水した電動車について、感電・火災のおそれがあるため非常用電源として使用しないよう注意しています。

EVは水没すると必ず感電する?

「水に濡れたEVは必ず感電する」という意味ではありません。通常使用時には安全対策が施されています。一方、浸水や事故で損傷した車の高電圧系統が正常かどうかを利用者が判断することはできないため、むやみに触らないというのが正しい整理です。

EVは水没すると必ず燃える?

必ず発火するわけではありません。ただし国土交通省は、浸水車について電気系統のショート等による車両火災のおそれを注意喚起しています。可能性がある以上、自己判断で通電確認しないことが重要です。

12Vバッテリーのマイナス端子は外した方がいい?

国土交通省・JAFには発火防止のためマイナス端子を外す案内がありますが、HV・PHEV・EVなどについては自分で対処せず専門家へ相談するという例外があります。一般車でも、作業方法やバッテリー位置が分からない場合、周囲が安全でない場合に無理に作業しないでください。

水没車を自分で押して移動してもいい?

車種や損傷状況によってはシフトやパーキングロック、駆動系の状態が問題になるため、一律には勧められません。危険な位置にある場合も、自分で車両システムを起動して移動させようとせず、ロードサービス等へ相談してください。

シートまで浸かったら必ず廃車?

必ずではありません。浸水高さだけで全国一律に廃車・全損を決める基準はなく、水質、浸水時間、車種、電装品の位置、修理費などを踏まえて判断されます。

洪水による水没は車両保険で補償される?

車両保険では、契約内容に応じて台風・洪水・高潮などによる損害が補償対象になります。ただし補償タイプなどによって異なるため、契約先へ確認してください。

津波による水没も同じ?

同じではありません。地震・噴火、またはこれらによる津波の損害は、一般的な車両保険では原則として補償対象外です。別途、地震・噴火・津波に対応する特約が用意されている場合があります。

罹災証明書がないと車両保険を請求できない?

日本損害保険協会は、損害保険の保険金等の請求について、自治体の罹災証明書は原則不要と案内しています。実際に必要な資料は契約先へ確認してください。

まとめ|水が引いて見た目が戻っても「試しに始動」はしない

大雨や洪水のあと、車の周囲から水がなくなると、「もう大丈夫そうだ」と感じるかもしれません。

しかし、水が引いたことは、吸気系、電気装置、コネクター、高電圧系統などまで正常になったことを意味しません。

水没・冠水した可能性がある車は、試しにエンジンをかけない。EVなら車両システムを起動しない。自走しない。HV・PHEV・EVなどは高電圧部分へむやみに触れない。

一度動いた、警告灯が出ない、車内が乾いているといったことも、点検の代わりにはなりません。

まず人の安全を確保し、安全な場所から被害状況を残したうえで、ロードサービス、販売店、整備工場へ相談する。その後に保険会社への連絡、点検、修理見積もり、修理か廃車かの判断へ進むのが基本です。

「エンジンがかかるかどうか」は、安全かどうかを確かめるテストにはなりません。むしろ、確認のために始動させないことが、水没後の車で最初に覚えておきたいポイントです。

主な参考情報

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