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初代PlayStationの起動音はただの演出ではなかった?「ディスクを正常に読めた」ことまで知らせていた仕組み

初代PlayStationの起動音には意味があった?ディスク読込まで知らせた仕組み

初代PlayStation本体とブラウン管テレビに広がる起動音の波形を描き、起動音がディスク読み込みまで知らせていた役割を紹介する記事のアイキャッチ

初代PlayStationの電源を入れると、暗い画面の中から低い音がゆっくり広がり、やがて独特のきらめくような響きへ変わっていく。

1990年代にPlayStationで遊んでいた人なら、ゲームそのものより先に、あの数秒を思い出すかもしれません。

あの音は、単に「かっこいい起動画面」を演出するためだけに作られたものではありませんでした。

起動音を制作した藤澤孝史氏は2019年のPlayStation.Blogのインタビューで、音には「ハードウェアが本来どおり動作していること」と「ディスクが正常に読み込まれたこと」をユーザーへ伝える役割があったと説明しています。

さらに、途中に聞こえる逆再生のようなスウッシュ音については、ディスクを読み込めなかった場合にループへ入れるよう設計し、「何か問題が起きた」と分かるようにした趣旨まで語っています。

先に結論

初代PlayStationの起動音は、ブランド演出だけを目的とした音ではありません。制作者の藤澤孝史氏は、本体が正常に動き、ディスクの読み込みが進んだことをユーザーへ伝える機能も持たせたと説明しています。ただし、音そのものが故障箇所を診断していたわけではありません。実際のチェックはBIOSやCD-ROM側で行われ、その進行をユーザーへ感じさせるよう音が設計されていました。

子どもの頃、何となく眺めていた数秒の間にPlayStationは何をしていたのか。そして、なぜ30年以上たった今でも、あの音を聞くだけで「ゲームが始まる」と感じるのか。

今回は初代PlayStation(初代PS、一般にPS1とも呼ばれます)の起動音を、制作者本人の証言と当時の技術資料からたどります。

あの起動音には「正常に動いている」と知らせる役割があった

今回の話で最も意外なのは、藤澤孝史氏自身が起動音に機能的な意味があったと明言していることです。

PlayStation.Blogに2019年12月5日付で掲載されたGame Informerのインタビューで、藤澤氏は起動音の役割を、ハードウェアが本来どおり動作していること、そしてディスクが正常に読み込まれたことをユーザーへ知らせるものだったと説明しました。

ここは少し慎重に読んだ方がいい部分でもあります。

「起動音がディスクを検査していた」という意味ではありません。PlayStation本体のBIOSやCD-ROMコントローラが起動処理とディスク確認を進め、その状態を人間が感じ取れるようにサウンドが組み込まれていた、という関係です。

したがって、あの音を聞けば故障箇所まで分かったわけでも、ディスク全体に傷がないことを保証していたわけでもありません。

それでも「本体の電源を入れたときに流れる短いロゴ音」に、単なるブランドイメージを超えた役割が与えられていたことは、本人の証言から確認できます。

起動音を作った藤澤孝史氏は、音だけを担当していた人ではない

この話がさらに面白くなるのは、藤澤氏が完成したゲーム機へ後から効果音を付けただけの人物ではなかったことです。

本人によれば、正式なPlayStationチームが発足する以前からプロジェクトに参加していました。ハードウェア開発が進み、1994年春にプロトタイプが完成した段階で起動音を制作。ロゴアニメーション、当時の言葉でいう「モーションロゴ」を受け取り、そこへサウンドデザインを加えました。

さらに藤澤氏は、サウンドチップだけでなくファームウェアや開発ツールのチームにも関わっており、ポリフォニーやADPCMといったPlayStation側の条件も理解していました。

だからこそ、「映像に似合う音を作る」だけでは終わりませんでした。

世界中には音質も性能も違う無数のテレビがあります。そのどのテレビスピーカーから鳴らしても、PlayStationという機械の核となるイメージを保てるようにする。しかもROM容量には限りがあるため、音のデータサイズも可能な限り小さくする。

今ならテレビ、サウンドバー、ヘッドホンなど再生環境を想定して音を作るのは珍しくありません。しかし1994年当時、世界各地の家庭にあるテレビから同じ印象を出す必要があったと考えると、あの数秒の見え方が少し変わってきます。

電源を入れてからゲームが始まるまで、本体は何をしていた?

プレイヤーから見ると、PlayStationの起動はごく単純です。

電源を入れる。音が鳴る。ロゴが出る。そしてゲームが始まる。

その裏側では、BIOSとCD-ROM周辺の処理が動いています。

Sony Computer Entertainmentの開発者向け資料「PlayStation Operating System」では、実機でアプリケーションを起動する際、ROM内の処理へ移り、CD-ROMドライブなど接続されているハードウェアを確認したあと、ドライブ内のディスク種類を判定すると説明されています。

ゲームとして起動できるディスクであれば、ディスク内のSYSTEM.CNFなどから起動情報を取得し、指定されたプログラムの実行へ進みます。

段階プレイヤーから見えるもの本体側で進む主な処理
電源投入画面が切り替わり起動シーケンス開始BIOS起動、本体・周辺ハードウェアの初期化
最初の起動画面・サウンドSony Computer Entertainment側の表示と起動音CD-ROMドライブなどの状態確認、起動処理を継続
ディスク確認プレイヤーには待ち時間として見えるディスクの種類やゲームとして起動可能かを判定
ゲーム起動ルートへPlayStationロゴなどが表示される起動情報を確認し、ゲーム実行ファイルの読み込みへ
ゲーム開始メーカーやゲームのロゴへ移行BIOS主体の起動処理からゲームプログラムへ

この表は、一般読者向けに起動処理をまとめたものです。BIOSのバージョンや本体の地域・型番によって細部には違いがあり、画面表示と個々の内部命令が一対一で対応しているわけではありません。

ただ、「あの数秒の間、本体が何もせずロゴを見せていたわけではない」という点は間違いありません。

初代PlayStationの電源投入からゲーム開始まで、起動画面の裏でBIOS初期化・CD-ROM確認・SYSTEM.CNF読み込みが進む流れを示した図解

初代PlayStation本体の誕生から各年代の流れについては、「初代プレイステーションの歴史|PS1発売日から名作ソフト誕生までをわかりやすく解説」でも詳しく振り返っています。

SYSTEM.CNFは「正規ディスクかどうか」を判定するファイルではない

PlayStationの起動処理を調べると、よく登場するのがSYSTEM.CNFという名前です。

これは大ざっぱに言えば、ゲーム起動時に「どの実行ファイルを立ち上げるか」といった情報を本体へ伝えるための設定ファイルです。

ここで混同しやすいのが、PlayStation用の正規ディスクかどうかを確認する仕組みです。

正規PlayStationディスクとして扱えるかどうかの判定と、SYSTEM.CNFからゲームの起動先を確認する処理は同じものではありません。

CD-ROMドライブ側にはディスクの種類を識別する処理があり、技術解析資料ではPlayStation用ディスクの認証情報や地域情報も判定対象になっていることが確認されています。日本、北米、欧州などの製品本体では、通常は本体側と条件の合うディスクでゲーム起動へ進みます。

そのうえでゲームディスク内の起動情報を読み、最終的にゲームプログラムへ移っていく、という複数段階の処理になっています。

ディスクを読めなかったら、起動音はどうなる?

ここで再び藤澤氏のインタビューへ戻ります。

聞き手は初代PlayStationの起動音を、冒頭の音、ベルのような音、スウッシュ音、最後の幻想的な響きという複数のフェーズとして捉えています。

その中で藤澤氏は、逆再生のように聞こえるスウッシュ音について、ディスクを読み込めなかった場合にループへ入れるよう設計したと説明しました。何か問題が起きたことを理解できるようにするためです。

ただし、ここから「読み込みエラーが起きると、どのPlayStationでも必ず同じ異常音が鳴り続ける」とまでは言えません。

本体には複数の型番とBIOSバージョンがあり、地域による違いもあります。さらに、ディスクをまったく認識できない状態と、一部まで読めるものの途中でエラーになる状態は同じではありません。

藤澤氏から確認できるのは、あくまで「読めなかった場合にループへ入れることを想定して音を設計した」という制作意図です。

ネット上では初代PlayStationの異常な起動画面や音に独自の名称を付けた動画も多数ありますが、それらの呼び名をSonyやPlayStationが正式名称として使用していたことは今回確認できませんでした。都市伝説的な説明と、公式に確認できる仕様は分けて考えた方が安全です。

正常なゲーム、ディスクなし、音楽CDでは何が違う?

Sonyが公開しているSCPH-7500の取扱説明書を見ると、PlayStation本体は少なくとも「PlayStation規格CD-ROM」「ディスクが入っていない状態」「本機で使えないディスク」を区別して扱っていました。

初代PlayStationはゲーム専用CDだけでなく音楽CDも再生できるため、音楽CDはゲームとは別の経路で扱われます。

ディスクの状態本体側の扱い注意点
正常なPlayStation規格CD-ROMゲーム起動の処理へ進む起動情報を読み、ゲームプログラムへ移行する
ディスクなしゲームは起動しない本体側の画面・機能へ移る
音楽CDゲームとは別のディスクとして扱う初代PlayStationには音楽CD再生機能がある
PlayStation規格でないCD-ROMゲーム起動には進まないSCPH-7500説明書では「本機で使えないディスク」の画面を案内
傷・汚れなどで読み取りに失敗正常なゲーム起動へ進めない場合があるエラー時の画面・音を全型番共通と断定はできない

取扱説明書でも、ゲームが正常に進まない場合にはディスクの種類、セット方法、汚れや傷などを確認するよう案内されています。

つまり「起動音が最後まで鳴ったから、そのディスクには絶対に問題がない」という仕組みではありません。起動時の読み込みが正常な経路へ進んだことと、その後ゲーム中の全データを最後まで正常に読めることは別の話です。

「PS1の起動音」は、実は一つの単純な効果音ではない

普段はまとめて「PS1の起動音」と呼ばれていますが、聞き直してみるとかなり複雑です。

PlayStation.Blogのインタビューでは、聞き手が音の流れを、冒頭の音、ベル、スウッシュ、最後の幻想的な響きと段階的に表現しています。

画面側にも、最初のSony Computer Entertainmentの表示と、その後のPlayStationロゴを含む複数の段階があります。

ただし、ここで「最初の低音はCPUチェック」「ベルが鳴ったらディスク認証完了」「最後の音がSYSTEM.CNF読み込み成功」といった対応表を作ることはできません。

藤澤氏は起動音全体に正常動作やディスク読み込みを知らせる機能を持たせたこと、そしてスウッシュ音に読み込み失敗時のループを考えていたことまでは説明していますが、一音ずつ内部処理と対応させたとは述べていません。

ここを無理に結びつけない方が、かえって初代PlayStationの面白さが見えてきます。

プレイヤーが聞いていたのは診断装置のビープ音ではなく、実際の起動処理と、人間に「これから始まる」と感じさせる演出を重ねたサウンドだったからです。

なぜ「怖い」と感じる人がいる?制作者はむしろ静かに迎えようとしていた

初代PlayStationの起動音について検索すると、「怖い」「不気味」「夜中に聞くと怖かった」という感想もよく見かけます。

ところが、藤澤氏本人が語った狙いはかなり違います。

電源を入れた瞬間にユーザーを驚かせないよう、音は静かに始めたそうです。そこから独自性がありながらも歓迎するような響きへ移り、電源を入れたときの安心感を、これからゲームが始まる高揚感へつなげようとしました。

藤澤氏が頭に描いていたのは、ホラー的な恐怖ではなく、映画館へ入ったときのような「何か楽しいことが始まる」感覚でした。

初代PlayStationの起動音を、静かな始まり・広がる響き・独特なハーモニー・スウッシュ音・きらめく終盤の5段階に分け、藤澤孝史氏の設計意図とともに示した図解

安定した響きから、少しだけ「普通ではない」響きへ

一方で、「どこか普通ではない」と感じる余地が意図的に入っていたことも本人の説明から分かります。

藤澤氏は、最初にオーケストラのような音から始め、進むにつれて民族音楽的な音色を加えたと語っています。

さらに、聞き手が最初は安定して感じ、そこから少し「ずれた」印象を受けるように構成。平均律から、独自の純正律的なハーモニーへ移して強い印象を残そうとしました。

音楽理論に詳しくなくても、考え方はシンプルです。

耳になじむ安心した場所から始まり、途中から少しだけ未知の場所へ連れていく。

そのうえでCメジャーのドミナント方向の動き、豊かなストリングス、終盤のきらめくような音、完全4度の和音などを組み合わせています。

「怖く感じる人がいるから、人間を怖がらせる特殊な周波数を使った」といった説明には、今回確認した一次情報上の根拠はありません。

むしろ制作者自身は、安心感からワクワクへ移る音として説明しています。その途中に少し不思議な響きを入れたことが、人によっては不穏にも聞こえる――そこまでなら、本人の説明から自然に理解できます。

実は「PlayStation」とささやく別バージョンもあった

完成版とは別に、藤澤氏は自分でサンプリングした「PlayStation」というささやき声を音の上へ重ねたバージョンも作っていました。

しかし、この案は最終的に採用されませんでした。

ゲーム機そのものがユーザーへ話しかけているような印象になってしまうため、最終的には現在知られている、よりシンプルでオーソドックスな案が選ばれたと藤澤氏は説明しています。

もしこちらが採用されていたら、PlayStationというブランドの第一印象はかなり違うものになっていたかもしれません。

しかもSony側から細かなメロディー指定があったわけではなく、大まかな依頼を受けて作った最初のデモが、ほぼそのまま承認されるところまで進んだそうです。

構想に約2週間、スタジオ作業は実質約2日

今ではPlayStation史を代表する音の一つですが、制作期間も興味深いものです。

藤澤氏によれば、構成を考え、音色を選び、必要な楽器を集めるところまでがおよそ2週間。その後のスタジオ作業そのものは、実質約2日で終えています。

「2日で適当に作った」という話ではありません。スタジオへ入る前に設計を詰めた期間があり、さらにPlayStationのハードウェアやROM容量、世界各地のテレビスピーカーといった条件も理解したうえで制作されています。

それでも、30年以上後まで「聞けば分かる音」として残るものが、この時間感覚で完成したことには驚かされます。

初代PlayStationは1994年12月3日発売。「PS one」とは別

初代PlayStationは1994年12月3日に日本で発売されました。

ゲーム媒体としてCD-ROMを採用し、3DグラフィックスとともにPlayStation世代を特徴付けた要素の一つになりました。

現在は初代機全体を「PS1」と呼ぶことが一般的ですが、2000年に発売された小型モデルの正式名称「PS one」とは区別が必要です。

PlayStation公式の歴史ページでも、1994年の「PlayStation launch model」と、2000年の「PS one」は別の本体バリエーションとして紹介されています。

なお、スーパーファミコン時代の高価なROMカセットから、PlayStationなどのCD-ROMへゲーム媒体が変わったことで価格構造も大きく変化しました。この時代のソフト価格の変化については、「ゲームソフトはなぜ1万円を超えた?スーファミ→PS『5800円』→現在まで『ゲームの値段』40年史」で詳しく整理しています。

PS2でも「起動音の考え方」は受け継がれた

初代PlayStationで終わった話でもありません。

PlayStation 2の時代にはサウンドチームが大きくなったため、藤澤氏はまずコンセプトを作り、チーム内で案を競う形にしました。最終候補を2案まで絞り、PlayStationシリーズをつなぐ要素として完全4度の響きを強調したといいます。

久夛良木健氏から示されたイメージは、宇宙空間に浮かぶモノリスと、その背景に地球があるようなもの。藤澤氏は安定した完全4度のハーモニーによって、シンプルな力強さや、宇宙からどこかへ着地する感覚を表現しました。

PlayStation 3の頃には藤澤氏は開発マネージャー業務が中心となり、実際のサウンド制作は後輩スタッフが担当しています。PS3のオーケストラが音合わせをするような起動音についても、「何かが始まる」ことを表現するコンセプトとして藤澤氏は評価していました。

音そのものは世代ごとに大きく変わりましたが、「ゲームの世界へ入る直前の数秒をどう感じさせるか」という発想は、その後のPlayStationにも残っていきます。

30年以上たっても、PlayStation公式があの音を残している

1994年に作られた起動音は、その時代だけで終わりませんでした。

現在のPlayStation公式歴史ページには「Welcome to PlayStation」という独立した項目が用意され、藤澤孝史氏が作った起動チャイムを紹介しています。ページ内のCRTテレビを選ぶと、初代PlayStationのwelcome sequenceも確認できます。

PlayStation公式「1994 PlayStation History」で初代のwelcome sequenceを見る

2018年に発売された小型復刻機「PlayStation Classic」でも、PlayStation公式はオリジナルの起動音を収録すると明記しました。電源を入れると、あの起動音が再び流れる仕様です。

さらにPlayStation 30周年では、初代本体を思わせるグレーをPS5世代の製品へ取り入れた「30th Anniversary Collection」が登場。PS5では、30周年企画で好評だった歴代PlayStationを意識したUIデザインも、2025年に「Appearance」として復活しました。

ただし、現在のPS5で初代PlayStationの完全な起動シーケンスを常時そのまま使える、という意味ではありません。歴代機を意識したUI演出と、1994年の本体が実際に行っていた起動処理は別物です。

あの数秒を聞くと「ゲームが始まる」と感じたのは偶然ではなかった

初代PlayStationの起動音を振り返ると、音楽と機械の境目にあるような存在だったことが分かります。

裏側ではBIOSが動き、CD-ROMドライブを確認し、ディスクを判定し、ゲームを起動するための情報を読み込んでいました。

その一方で藤澤孝史氏は、単に処理を待たせるだけではなく、電源投入時の安心感から「これから楽しいことが始まる」という高揚感へユーザーを連れていこうとしていました。

そして本人の説明によれば、その音には本体が正常に動いていること、ディスクが正常に読み込まれたことを知らせる役割まで含まれていました。

だから、当時のプレイヤーがあの音を聞いて「よし、始まる」と感じていたことは、完全な偶然ではありません。

映画館へ入り、照明が落ち、これから作品が始まるのを待つような感覚。

1994年春、藤澤氏が目指したものは、まさにそこでした。

子どもの頃はただ待っていただけの数秒。しかしその短い時間には、ハードウェアの起動、ディスクの確認、ブランドの演出、そして「これから遊べる」という感覚まで詰め込まれていたのです。

主な参考資料

-サブカル文化史アーカイブ, レトロゲーム系
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